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「視野が狭くなっていること」に、なぜ現場は気づけないのか ―福祉サービス第三者評価が果たす役割【評価者の実体験から】

何度対応しても終わらなかった「騒音トラブル」

評価者が実際の現場で経験した体験談として、以下のような事例がありました。

グループホームでは、生活音をめぐるトラブルは珍しいものではありません。

以前、「少しの物音でも響いて眠れない」という訴えが繰り返されることがありました。

もともとその方には、些細なことにも非常に敏感になったり、何かをきっかけに感情が大きく高ぶったりする様子が見られていました。音についても同様でした。ほかの人なら気にならないような生活音にも強く反応し、「眠れない」「どうにかしてほしい」という訴えが繰り返される。

職員はその都度、話を聞きました。周囲の状況を確認し、ほかの利用者さんにも配慮をお願いする。「部屋を変えてほしい」という希望について検討する。時には本人が直接ほかの利用者さんへ苦情を伝えに行き、別のトラブルになりかねないこともありました。カンファレンスも何度も開きました。

それでも、しばらくするとまた同じことが起こります。

そして問題が長期化するにつれ、影響は本人の生活だけにとどまらなくなっていきました。繰り返し対応するスタッフは疲弊していきました。離職も増えていきました。さらに、何かあるたびに「代表を出してほしい」と求められるようになり、最終的には経営側も直接対応せざるを得ない状況になっていきました。

今振り返ると、私たちは何もしていなかったわけではありません。むしろ、その逆でした。現場も管理者も、その都度かなり真剣に対応していました。だからこそ、気づきにくかったことがあります。組織全体の視野が、いつの間にか狭くなっていたのです。

「音がうるさいと言われたから、騒音への対応を考える」
「部屋を変えてほしいと言われたから、居室変更を検討する」
「利用者間で問題になったから、その関係を調整する」
「代表と話したいと言われたから、代表が対応する」

目の前に出てきた問題を、一つずつ解決しようとしていました。

しかし、少し視点を引いて見れば、音に対する反応だけではありませんでした。以前から見られていた、非常に神経質になる様子。何かをきっかけに感情が大きく高ぶってしまうこと。そして、繰り返される強い訴え。それらを一つの「状態」として捉え直す視点が、いつの間にか抜けていました。

転機になったのは、医師に相談したことでした。これまでの様子を伝え、医療の視点から状態を見てもらいました。その後、服薬が見直されました。すると、それまでの状況が嘘のように変わっていきました。音に対する強い訴えだけではありません。以前から見られていた神経質さや、些細なことから感情が大きく高ぶる様子も落ち着いていきました。長く続いていた騒音をめぐる問題も、そこから終結へと向かっていきました。

もちろん、ここでお伝えしたいのは、「問題行動があったら薬を変えればいい」ということではありません。服薬について判断するのは医師ですし、似たような行動であっても、その背景は一人ひとり異なります。この経験で重要だったのは、薬そのものよりも、私たちが問題を見る枠を変えたことだったと思っています。「騒音問題」として長く対応してきたものを、「もしかすると、別のところに背景があるのではないか」と考え、別の専門職に相談した。そこから状況が大きく動きました。

視野が狭くなっていることには、自分たちでは気づきにくい

この経験から残ったのは、「もっと早く医師に相談すればよかった」という反省だけではありませんでした。

現場も、管理者も、経営側も、それぞれ真剣に対応していました。カンファレンスもしている。本人の話も聞いている。環境調整も考えている。

それでも、長く同じ問題に向き合っているうちに、いつの間にか「騒音をどうするか」という枠の中だけで考えるようになっていました。

誰かが怠けていたわけでも、支援を軽視していたわけでもありません。むしろ、一生懸命対応していたからこそ、その枠から抜け出しにくくなっていたのだと思います。

一つの問題に長く向き合っていると、知らないうちに視野は狭くなります。職員が何度も対応している。会議もしている。管理者も対応している。経営者まで対応している。それでも状況が変わらない。そんなとき必要なのは、「さらに同じ対応を頑張ること」ではないのかもしれません。一度立ち止まって、「私たちは、この問題を正しく問題設定できているだろうか」と問い直してみることなのだと思います。

「次はどう対応するか」ばかりを考えてしまう組織の癖

これは組織でも同じなのかもしれません。

長く続いている問題ほど、「なぜ解決しないのか」を考える前に、「次はどう対応するか」を考えてしまう。会議を重ねても、対応する人を変えても、同じところをぐるぐる回ってしまうことがあります。

福祉の現場は特に、目の前の利用者への支援を優先せざるを得ない環境にあります。日々の業務に追われる中で、「今の対応方法が正しいのか」を一度立ち止まって考える時間そのものが、どうしても後回しになりがちです。その結果、対症療法を積み重ねることには長けていても、問題の立て方そのものを見直す機会が失われていく――そうしたケースは、決して珍しいことではありません。

そんなとき、必要なのは新しい対策ではなく、

「そもそも、私たちは何を問題だと思っているのか」

を疑ってみることなのかもしれません。

第三者評価が組織にもたらす「外からの視点」

第三者評価で組織を見ていると、この経験を思い出すことがあります。

外から見れば答えが分かる、という意味ではありません。中にいるからこそ見えるものがある一方で、中にいるからこそ見えなくなるものもある。そのことを、自分自身が現場で経験したからです。

これは、第三者評価にも通じる話だと考えています。内部の人間が努力していないから、第三者の目が必要なのではありません。一生懸命対応し、長くその問題と向き合っているからこそ、見えなくなってしまうものがあります。経営者も管理者も現場職員も、同じ問題に長く向き合えば、知らず知らずのうちに同じ方向から物事を見るようになります。

福祉サービス第三者評価は、単に「基準を満たしているかどうか」をチェックする仕組みではありません。日々の支援に真剣に向き合っている事業所ほど、目の前の対応に集中するあまり、問題そのものの捉え方を見直す機会を持ちにくくなっています。第三者評価者が訪問調査や職員自己評価、利用者への調査を通じて行っているのは、まさにその「問題の枠」そのものを、外部の視点から一緒に見つめ直す作業です。

だからこそ第三者評価は、業界の制度や現場の実情を理解した評価者が行う必要があります。制度を知らない、現場の大変さを知らない人が形式的にチェックリストを埋めるだけでは、事業所が本当に向き合うべき論点は見えてきません。現場経験のある評価者が訪問することで、初めて「なぜこの対応が続いているのか」「他にどんな選択肢があり得るのか」という、事業所自身では気づきにくい視点を提供できるのだと考えています。

組織の中だけでは気づきにくくなった「別の見方」を持ち込むこと。第三者評価の価値の一つは、そこにあるのではないでしょうか。

第三者評価を「経営改善のきっかけ」にするために

第三者評価を、行政から求められるから受ける義務的なものと捉えるか、自分たちの支援の質を見直す機会と捉えるかで、評価から得られるものは大きく変わります。

評価結果報告書には、日々の業務の中では気づきにくかった強みや、当たり前になりすぎて疑われなくなっていた前提が言語化されて示されることがあります。それを「指摘された」と受け止めるのではなく、「自分たちだけでは見えなかった視点をもらえた」と捉えることができれば、第三者評価は単なる受審実績づくりではなく、支援の質と組織の在り方そのものを見直すきっかけになります。

福祉サポート評価研究所では、障がい者グループホームや就労継続支援、認可保育所など、それぞれの業界で実務経験を積んだ評価者が、制度への理解と現場感覚の両方を持って訪問調査にあたっています。事業所の立場に立ちながらも、中にいるからこそ見えなくなっているものに、外からそっと光を当てること。それが、私たちが第三者評価を通じて大切にしていることです。

長く同じ課題に向き合い続けている事業所ほど、一度、外部の目を通して自分たちの「問題の枠」そのものを見直してみる価値があるのではないでしょうか。

福祉サポート評価研究所は、東京都福祉サービス第三者評価機構の認証を受けた評価機関として、東京都内の障がい者グループホーム、就労継続支援A型・B型事業所、認可保育所・認定こども園の第三者評価に対応しております。中野区の事務所を拠点に、都内各地の事業所へ訪問調査に伺っておりますので、都内で第三者評価の受審をご検討中の事業所様は、地域を問わずお気軽にご相談ください。

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